体と心をヘルシーに育む
日常の飾らないごはん

美味しい! を追いかけて食材作りにたどり着いた

東急東横線・中目黒駅から徒歩2分の場所にありながら、喧騒を感じない落ち着いた雰囲気のごはん屋さん、ことこと。店主の佐藤ひろみさんが作るごはんは、「どれを食べても、美味しい」と長年人々の胃袋を満たしている。特別ではない日常に食べるごはん。店名でもあるお勝手の音は、いつもの風景がそこにあるという、安心の音なのだ。

実は佐藤さん、以前はパティシエとして活躍されていた。小学生の時に初めてマドレーヌを自分で焼いて以来お菓子作りに目覚め、高校卒業後は製菓の専門学校、ケーキショップ勤務とケーキ一直線。その後、代官山でカフェを経営していた時期もあったという。当時まかないで作っていた煮物などのおかずが常連さんから思いのほか好評だったことで、“お洒落なカフェっぽいメニューより、普段から食べているようなものを作って出したい”と自然と思うようになっていった。2003年にことことをオープンし、2009年にはレシピ集『ことことのごはん 〜まいにち食べたいおかずとおつまみ』を出版するなど、その頃から今に至るまで変わらず、周囲が放っておかない人気店であり続けている。

ことことのごはんは、お酒に合う肉、魚料理も魅力的だが、季節の野菜を使ったメニューが充実していて、ヘルシーな食べ合わせができる。2011年の東日本大震災をきっかけに、食をはじめ、生活の様ざまなことに疑問を持ち、自ら学ぶようになった佐藤さん。「食材に関しては、少しずつ勉強しながら今に至っています。だからこれからも、そのときどきのベストを探していきたい」と言う。現在、野菜をはじめ、調味料に至るまで食材はほぼオーガニック。ただし、完璧を求めすぎると疲れてしまうので、“佐藤さん自身が食べたいと思うかどうか”を基準に、あくまで出来るだけ、という無理しないスタンスをキープしている。仕入れ先の農家さんも知り合いのつてを辿るなど、顔の見えるおつきあいを大切にしていて、年に数回、地方の農家さんを訪ねているそう。そこで実際に見る畑の風景、生産者さんから聞く体験談に感銘を受け、素材の魅力を最大限に活かした料理に反映している。

下味がしっかりついてるゴボウの天ぷら

ぎっしりかぼちゃが詰まっているコロッケ

佐藤さんはいつも、興味を持って手作りできるものに関しては、とりあえず1回手作りしてみるそう。そうすると、無添加の安心なものができる上、期待していた以上の美味しさに感動するのだとか。そういった理由で、店で使う味噌は年に1 回大量に仕込むのが恒例となっている。ベーコンやハムなどの加工肉も家庭用の燻製機を使って自家製。秋になると、熊本から送られてくる自生のこんにゃく芋でこんにゃくを手作りする。かつては豆腐も手作りしていた。そしてそれらは凝った料理に用いるよりも、味噌はシンプルな味噌汁、ベーコンなら焼くだけ、こんにゃくなら刺身、豆腐なら塩や醤油をかけるだけで十分に滋味深い。まさに、まっとうに作った食材は、それだけで美味しくいただけるということを証明している。

シメに食べたくなるおにぎり

おにぎりにはもちろん自家製のお漬物

ことことに集う人々は、美味しいものやおしゃべりが好きな大人たち。だからいつも食べて、にこにこ笑っている。それは、自然なものを体に入れて元気になるという、人間の本質的な喜び安心感からくるものなのかもしれない。