おうちごはん、写真集、イベント
楽しい大人たちによる手作りの遊び場

ホッとして元気になれる日本のおうちごはん

恵比寿駅を背に駒沢通りの坂道を青山方面に向かって徒歩7分。大きなガラス窓が入ったウッディな建物のここは、写真集食堂 めぐたま。料理人のおかど めぐみこさん、写真評論家の飯沢耕太郎さん、そのパートナーでアーティストのときたまさんの3人がそれぞれの好きなこと・得意分野を持ち寄って2014年2月にオープンした。

おかどさんとときたまさんは古くからの友人で、2012年までおかどさんが営んでいた『上野広小路 めぐり』では、2人で企画した催し＋おかどさんが作ったご飯で度々コラボレーションしていたそう。その後、老朽化していたときたまさんの実家の倉庫を建て直すタイミングで、「以前のような活動ができる自分たちの場所を持ちたい」と、写真集食堂 めぐたまを始めることになったという。店内の壁一面に並ぶ5000冊以上の写真集は、飯沢さんが40年近い歳月をかけて仕事と趣味を兼ねて集めてきたもの。いろんな人に見て欲しいという思いから、今や絶版となった貴重なものも含め、自由に閲覧できるよう公開している。めぐたまの合言葉は、「美味しいものを食べて元気に遊ぼう!」。お店をよりどころにみんなが集まる、まさに大人の遊び場となっている。

本の形のランプシェイド。お店の中にはめぐたまさんのこだわりがいっぱい。

おかどさんが作るのは、日本のおうちごはん。野菜は知り合いの農家さんから有機栽培のものを仕入れるが、時には近所の八百屋でも買う。添加物の入った食材は避けるけれど、基本は何においても“こうでなければ”という縛りは設けていない。おうちごはんは身近にあるもので簡単にできる、というのが一番大事。だから野菜も来るもの拒まず。盛りの時期に同じ種類が大量に集まっても、手を替え品を替え、旬のうちに無駄なく美味しく頂くことを大切にしている。そして美味しさの秘訣の一つは、下味をつけるひと手間。塩水に浸したり、しょうゆ洗いをすることで野菜にほんのりと味がしみるのだそう。「作ることが好きで、誰かに食べてもらうことがうれしい」。そんなピュアでシンプルな想いが、おかどさんがキッチンに立つ原動力だ。

日替わりの定食は、肉や魚を含め、食べると元気になれるようバランスを考慮したごはん。ぬか漬け、味噌、ドレッシングに至るまで手作りで、お米は無農薬。毎日やってくるお客さんも飽きさせない充実の内容だ。ベジタリアンには少し時間はかかるが、定食のメインの肉料理を野菜料理に変える対応ができる。ただし、煮物や味噌汁を含む多くの料理に鰹や煮干しの出汁を使うので、ヴィーガンの場合は晩ごはんタイムに、定食ではなく一品料理をチョイスしてほしいそう。

めぐたまでは、写真集についてのトーク、落語、お茶会など、毎月のようにユニークなイベントが行われる。ときにはテーマにちなんだ料理も提供している。レギュラーメニューの中には、明治時代の作家、村井弦斎の小説『食道楽』に出てくる「糠ケーキ」や「まぐろの泣きごはん」、江戸料理の「たまごふわふわ」などの再現料理もちらほら。これらはイベントの時に作った料理が定番したもの。YouTube「めぐたまキッチン」でも、おうちごはんと江戸料理の作り方動画を配信中だ。

新撰組の近藤勇も食べていた？たまごふわふわ。

江戸時代に作られたと思えない。シンプルでしっとりモダンな糠ケーキ

またカルチャーに関心を持つ人が集まる場所でもあるから、ソーシャルグッドなこともシェア。例えば、ネパールで作られたカレー粉をお店のキーマカレーに使用し、友人の吉岡大祐さんが開校したヒマラヤ小学校とその卒業生たちの自立を支援。さらに店内の大きな鏡に約3ヶ月ごとに異なるアーティストがキットパスで絵を描くプロジェクトを実施。それは障害者雇用に積極的に取り組むキットパスのメーカー、日本理化学工業への応援の意味を込めている。

ヒマラヤの子供達の自立支援につながるネパールのキーマカレー

「魂が喜ぶ、楽しいことをずっとしていたい」とは、おかどさん、飯沢さん、ときたまさんの共通の想い。それは五感を通して訪れた人にもじんわり伝わるもの。だからなのか、めぐたまの帰り道は、ほっこりして、いつもより元気になれるのだ。

5000冊以上の写真集。全部読みたくて、何度も通ってしまうお店。