ストーリーテラーとなって
農家と消費者をつなぐ八百屋

規格外野菜のアイスクリームで農業の今をポップに伝える

東急田園都市線の青葉台駅からバスにゆられて約10分、閑静な住宅街の中で異彩を放つのは、ヨーロッパのどこかの旧市街にあるようなレンガ造りのファサードが目印の建物、ミコトヤハウス。それまで店舗を持たずに個人宅配と飲食店卸をやってきた青果ミコト屋が創業10周年を機に、八百屋、出荷場、事務所、アイスクリーム工房、アイスクリームショップの全てを一堂に集めた場所を作った。

エントランスには季節のお花が咲いています。夏は百日紅とキウイ。

青果ミコト屋は2011年に鈴木鉄平さんと高校時代の同級生、山代 徹さんの2人で創業した八百屋。転機は、鈴木さんがバックパッカーをしていた20代の頃にネパールを訪れたこと。山岳民族の自然のサイクルに寄り添う暮らしぶりに感銘を受け、帰国後に農の世界に足を踏み入れることとなった。農業研修をする中で、まず農産物の品質保証のための規格に沿った野菜しか出荷・販売できないことに対し疑問を抱いた鈴木さん。食べる人の安心・安全を考えた自然栽培、持続可能な農業ができる畑の環境などを目的に作られた野菜の一部が「規格外だから」という理由ではねのけられる。「ちょっとぐらいなら虫食いでもいい」、「色艶、形がバラバラでも構わない」という消費者が増えれば、規格のために農薬や化学肥料で畑をがっちり管理し、不自然な品種改良をする必要もなくなる。野菜本来のあるがままの姿を受け入れる仕組みを作り、野菜の個性を伝えられる八百屋がいたら、少しずつでも農業を取り巻く環境が変わるのではないか。そんな思いから、鈴木さんたちは日本中の農家を訪ね歩き、自分たちが目指す八百屋をスタートした。

農家と消費者をつなぐストーリーテラー

全国２００軒以上の農家とお付き合いがあるミコトヤ

消費者の意識を変え、間口を広げるには、関心の薄い層を開拓することが先決。そこであえて分野違いのスポーツイベント、音楽イベント、クラフトマーケットなどにブースを出店。徐々にではあるが、多くの人の意識が変わってきたことを実感している。また規格外、B級品の野菜や果物を主な材料とするクラフトアイスクリームのブランド『キキ ナチュラルアイスクリーム』を立ち上げ、ポップでキュートなアイスクリームを通して、農業の現実をカジュアルに伝えるストーリーテリングの機会につなげているのだという。

アイスクリームに使われる野菜や果物は、店舗の売れ残りはもちろん、強風で傷がついたナス、玉割れしたブドウ、間引きのために摘んだ青トマトなど、今まで畑で廃棄されてきたものも使用し、フードロスを削減。集まった材料ありきでレシピを考えるので、定番はなく、その時々でどんどん新しいフレーバーが出来あがる。注目は、香ばしい手焼きのコーン。米粉、米ぬか、きな粉などを混ぜて、毎日工房で焼いている。

枝豆アイスクリームの枝豆を茹でる

優しい自然な色の枝豆アイスクリーム

全ての材料の作り手の顔、声、思い、畑の様子までを知っている完全トレーサブルなアイスクリームは、過去10年の農家さんとの出会いの結晶であり、他では味わうことができない貴重な味と言えるだろう。現在、お付き合いのある農家は全国に200以上。農薬も肥料も使わない自然栽培の野菜が中心ではあるけれど、栽培方法は農家の数だけあり、その農家さんがベストだと思うやり方を尊重している。いちばん大切なことは、誰が、どういう思いで育てているか。だから農家と消費者の双方向に声をフィードバックすることで、お互いの距離を縮めたいと願っている。それは、一般的なスーパーマーケットにはできないことだから。

青果ミコト屋の屋号は、昔の人は3つの誠（誠の言葉、誠の意思、誠の行動）が揃うことを「見事」と言い、それらが伴っていないことを「みっともない」（3つともない）と言ったことを由来としている。見事であれば、自ずと生まれるのは信頼関係。今日も青果ミコト屋は、農家と消費者の信頼を築くかけ橋となるべく、いろんなストーリーを真摯に誰かに伝えているのだ。

日本中の農家さんから届く野菜や加工品の八百屋さん